グスタフ列車砲

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グスタフ列車砲とヒトラー(1942年)

グスタフ列車砲(ぐすたふれっしゃほう)は、第二次世界大戦ドイツ陸軍が実用化した世界最大の巨大列車砲である。クルップ社製で、総重量約1350トン(1500トンの説もあり)、全長42.9m、全高11.6m。二台のみ製造され、一台目がクルップ社会長グスタフ・クルップの名前からグスタフ (シュベーレ・グスタフ、Schwerer Gustav)、二台目が設計主任エーリヒ・ミューラーの妻の名前から取られたドーラ (Dora) の名を持つ。

概要

マジノ要塞の攻略を目的に、軍の依頼を受けたクルップ社で1934年から開発が始まり1940年に製造されたが、実戦に参加したのは1942年セヴァストポリ要塞攻囲戦スターリングラード攻防戦など数回であるとされている。セヴァストポリ戦ではグスタフが要塞に対して16キロの距離から48発を発射した。またこの戦闘にはカール自走臼砲も参加した。この砲は本来3台造られる計画だったが、3台目は完成しなかった。

砲は砲身長28.9m、口径80cmのカノン砲であり、射程距離は30 - 47km(砲弾によって異なる)。砲弾は榴弾が4.8トン、ベトン弾が7.1トンと巨大であるために装填に時間がかかり、発射速度は1時間に3、4発。砲弾の輸送のために専用の貨物列車が必要であった。ライフリングの宿命として100発程度の使用で400トンある砲身の交換が必要になった。台車は大型の貨車を4台(台車8台)使用し、レール複線(4本)が必要であった。さらに、組み立て時には組み立て用クレーンを載せた台車を移動させるため、左右に一対ずつ線路が追加され複々線が必要となった。発射の反動は5軸10輪の台車8台で駐退復座装置とあわせて吸収した。

砲を稼動させるには、砲自体の操作に約1,400人、防衛・整備等の支援に4,000人以上の兵員と技術者が必要であり、それらを統括する指揮官の階級は少将であった。砲の移動には専用のディーゼル機関車2台を使用し、長距離の移動の際には分解されて運ばれた。その巨大さ故に運用には多大な時間がかかり、実際の砲撃に先立つ整地、レールの敷設、砲の移動、組み立てなどに数週間を要した。

当列車砲は、要塞攻略等その運用に適した戦闘においては圧倒的な破壊力を示した。当時これに替わりうると考えられていた航空機による爆撃には離着陸の時間や天候、防御と命中精度の問題があったが、当列車砲の場合、敵航空機による攻撃がなければ確実に敵を制圧するだけの攻撃をすることが可能であったからである。しかし、既述のとおり使い勝手の悪い兵器であり、実力を発揮する場面は少なかった。グスタフ・ドーラともに連合国軍の手に落ちるのを嫌って、ドイツ軍自ら破壊している。

なおグスタフ/ドーラは、カノン砲としては世界最大であるが、単純に砲口径だけで比較すれば、世界最大なのはアメリカ軍が製造したリトル・デーヴィッド(「Little David」)迫撃砲の36インチ(91.4cm)砲である。ただし、砲身長や砲重量、砲弾重量などの点で言えば、カノン砲であるグスタフ/ドーラの方が遥かに巨大である。

砲弾

800mm砲弾

榴弾

  • 重量: 4.8 t (4,800 kg)
  • 初速: 820 m/s
  • 最大射程: 48 km
  • 爆薬重量: 700 kg
  • クレーターサイズ: 幅10m、深さ10m

ベトン弾

砲弾本体はニッケルクロム鋼で、ノーズコーンはアルミニウム合金で出来ていた。

  • 全長: 3.6 m
  • 重量: 7.1 t (7,100 kg)
  • 初速: 720 m/s
  • 最大射程: 38 km
  • 爆薬重量: 250 kg
  • 貫通力: 7 mのコンクリートを貫通

「ドーラ」牽引用機関車D311型

「ドーラ」を牽引するための、専用の電気式ディーゼル機関車D311型も製造された。2両固定編成2組が1941年クルップ社で製造された。全長22.5m、出力1,880馬力、最高速度75km/h、8動軸(4動軸*2両)で、総重量147tであった。

この機関車は、第二次世界大戦後は西ドイツ国鉄V188型→288型ディーゼル機関車となり、貨物列車を牽引した。288型は1972年まで使用された。

フィクション

実用性の面では疑問符が付くが、現在に至るまで(そしておそらくは将来においても)実戦化された最大の大砲ということで、常に語り草となる兵器である。その為、数々の作品で取り上げられており、中には少なからぬ欠点をフィクションならではの大胆なアレンジ・改良で克服した「超兵器」として登場する事もある。

漫画・アニメ・小説

機神兵団』(山田正紀の小説)
機神と呼ばれる巨大ロボットにより移動や弾薬の装填を補助されることで、機動性や発射速度の低さを改善。機神兵団の切り札としてその威力を見せつけた。
大鉄人17
1号機「グスタフ」の名を冠して登場(大砲ロボット・グスタフ)。オリジナルではなく、その設計を元に新造したと劇中では推測されている。こちらは敵役であったが、完全に装甲化された巨大自走砲スタイルとなっており、砲弾の自動装填装置や射撃管制用レーダー(?)まで搭載、さらには車体先端のドリルを用いて地下に潜行することさえ可能という代物であった(なお、ドーラの自走砲化は当のドイツでも検討されていたと言われるが、当然、当時の技術水準で実現できる物ではなかった)。
銃夢』(木城ゆきとの漫画)
空中都市ザレムに反逆する反乱軍団バージャックが古代の資料から80センチ列車砲を再現し、インディアン神話に登場する雷神の名前にちなんで「ヘング」と命名している。作中では数キロ上空に位置するザレムめがけて砲撃するために建造された。
勇者王ガオガイガー
「EI-16(列車砲ゾンダー)」として登場。人間を素体として作られた「ゾンダー核」と、大戦末期に日本に持ち込まれていた列車砲グスタフが融合したという設定である。素体となった人間の意志のみで装填・発射が可能。更に、本来よりも遥かに高い連射性能を併せ持つ。ある程度は自走する事もでき、発射時以外はトンネルに潜伏していた。ゾンダー化した事によって大幅に射程距離が伸び、群馬県から東京都内の目標を砲撃した(照準については外部からのサポートを受けていた可能性もあるが、作品内では語られていない)。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序
第3新東京市の防衛施設の一つとして「地対地800mm列車砲」という名称で登場。劇中では第27地対地800mm列車砲と第28地対地800mm列車砲が登場し、第5の使徒の迎撃に当たる。
銀河鉄道物語
グスタフ列車砲」は明らかに当記事の兵器から名前を取ったものだが、外見はむしろカール自走臼砲に似ている。
こちら葛飾区亀有公園前派出所
第二次世界大戦が続いていると信じていた、千葉県埼玉県の境にある度井仲県の度井仲署という旧日本軍の武装をそのまま流用した警察署が登場し、県内で窃盗事件が発生しスポーツカーを盗んで逃げる犯人相手に最終手段として列車砲が登場した。
漫画『ムダヅモ無き改革
第四帝国の戦略兵器「10000mmグスタフ列車砲」は、外見こそグスタフの相似であるが、サイズや口径、射程距離が規格外にスケールアップされている。月面から直径10mの小惑星をレールガン方式で撃ち出す事が可能で、破壊力は広島型原爆の一千倍。
小説・漫画・アニメ『旭日の艦隊』(荒巻義雄原作)
舞台である後世世界において、対ソ戦線で前世と同じ「ドーラ」が登場するほか、ドーラを元に製造された80cmの口径を持つ大型列車砲「ヒトラー砲」が登場する。さらにドーラやグスタフを遙かに凌ぐ、200〜250kmの射程を持つ28cm列車砲「ゲルマン砲」や時速100km/hで路線総延長2000kmを走破可能な敵陣地攻略長距離砲「新ゲルマン砲」が登場する。ゲルマン砲はイギリス南部に壊滅的被害をもたらしたほか、七胴戦艦「フェルゼン」の主砲としても艦載された。

ゲーム

RING of RED
「ドーラ・グスタフ」という名前の超大型AFW(戦車等をモチーフとしたロボット)として登場した。劇中では、ドイツで開発された物をアメリカが鹵獲改良し、日本に配備したという設定で登場する。通常砲弾による砲撃だけでなく核弾頭をも打ち出すことが可能であった。
Wolfenstein: Enemy Territory
一部のマップ(デフォルトマップでは「Rail Gun」)に登場する。プレイヤー達はこれの発射を巡って攻防戦を行う。制御板をダイナマイトで破壊することで無力化されるが、時間内なら工兵で修理可能。弾丸輸送にディーゼル機関車も登場する。
ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮
圧倒的な巨躯を誇る超兵器、160cm列車砲「ドーラ・ドルヒ」が登場。超兵器機関が生み出すパワーにより高速走行と数秒間での10連射が可能。上空に向けて放たれた砲弾は赤熱した隕石の如く降り注ぐ。気球による着弾観測を失うと命中率が激減してしまう。

模型業界における80cm列車砲

地上兵器としては空前の規模を持ち、模型業界において究極の対象である。過去においては自作の対象であったが、1/144・1/72・1/35といった縮尺において市販化されている。 鉄道模型では REI Military Models がHOゲージの製品ドーラを出している。

関連項目

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